の給仕のロバートを探しに飛び出した。今でも忘れないが、あまりに腹を立てていたので、ロバートを見つけるとあらあらしく百五号室の戸口までひきずって来て、あいている窓の方へ突き飛ばしてやった。
「毎晩のように窓をあけ放しにしておくなんて、なんという間抜けな真似をするのだ、横着野郎め。ここをあけ放しにしておくのは、船中の規定に反するということを、貴様は知らないのか。もし船が傾いて水が流れ込んでみろ。十人かかっても窓をしめることが出来なくなるぐらいのことは知っているだろう。船に危険をあたえたことを船長に報告してやるぞ、悪者め」
僕は極度に興奮してしまった。ロバートは真っ蒼になって顫《ふる》えていたが、やがて重い真鍮の金具《かなぐ》をとって窓の丸いガラス戸をしめかけた。
「なぜ、貴様はおれに返事をしないのだ」と、僕はまた呶鳴《どな》り付けた。
「どうぞご勘弁なすってください、お客さま」と、ロバートは吃《ども》りながら言った。「ですが、この窓をひと晩じゅうしめておくことの出来るものは、この船に一人もいないのです。まあ、あなたが自分でやってごらんなさい。わたくしはもう恐ろしくって、この船に一刻《いっとき》も乗ってはいられません。お客さま、わたくしがあなたでしたら、早速この部屋を引き払って、船医の部屋へ行って寝るとか、なんとかいたしますがね。さあ、あなたがおっしゃった通りにしめてあるかないか、よくごらんなすった上で、ちょっとでも動くかどうか手で動かしてみてください」
僕は窓の戸を動かしてみたが、なるほど固くしまっていた。
「いかがです」と、ロバートは勝ち誇ったように言葉をつづけた。「手前の一等給仕の折紙《おりかみ》に賭けて、きっと半時間経たないうちにこの戸がまたあいて、またしまることを保証しますよ。恐ろしいことには、ひとりでにしまるんですからね」
僕は大きい螺旋《ねじ》や鍵止めを調べてみた。
「よし、ロバート。もしもひと晩じゅうにこの戸があいたら、おれはおまえに一ポンドの金貨をやろう。もう大丈夫だ。あっちへ行ってもいい」
「一ポンドの金貨ですって……。それはどうも……。今からお礼を申し上げておきます。では、お寝《やす》みなさい。こころよい休息と楽しい夢をごらんなさるように、お客さま」
ロバートは、いかにもその部屋を去るのが嬉しそうなふうをして、足早に出て行った。むろん、彼は愚
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