者)の説を信ずるもののようである。それらを論じているうちに、われわれは降神術の問題に触れた。私はスレードの詐欺に対して、ふざけた引喩《いんゆ》をしたところ、彼は有罪と無罪とを混同しないようにと、はなはだ熱心にわたしに向かって警告した。そうして、キリスト教と邪教とをひとしく心に刻するのは正しい議論である、なぜなれば、キリスト教を詐《いつわ》りよそおったユダは悪漢《わるもの》であったと彼は論じた。それから間もなく、彼はお寝《やす》みと言って、自分の部屋へ退いて行った。
 風は新たになり、確かに北から吹いている。夜は英国の夜のごとくに暗い。あすは、この氷の桎梏《かせ》からのがれ得ることを祈る。

 九月十七日。再びお化け騒ぎ。ありがたいことに、わたしは至極大胆である。意気地のない水夫らの迷信と、熱心なる自信をもってかれらが語る詳細の報告とは、かれらの平生に慣れていない者を戦慄させるであろう。
 妖怪事件については、多くの説がある。しかしそれらを要約すれば、何か怪しいものが船の周囲を終夜飛びあるくというのである。ピーターヘッドのサイディ・ムドナルドもそれを見たと言い、シェットランドの背高《せい
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