しが説教する時のことを夢みながら床《とこ》につくのです。わたしはこの世に、僧侶になるというほどの喜びは、他に何もないものだと信じていました。詩人になれても、帝王になれても、わたしはそれを断わりたいほどで、わたしの野心はもうこの僧侶以上に何も思っていませんでした。
 とうとう私にとって大事の日が参りました。私はまるで自分の肩に羽《はね》でも生えているように、浮きうきした心持ちで、教会の方へ軽く歩んでいました。まるで自分を天使《エンジェル》のように思うくらいでした。そうして、大勢《おおぜい》の友達のうちには暗いような物思わしげな顔をしている者があるのを、不思議に思うくらいでありました。わたしは祈祷《きとう》にその一夜を過ごして、まったく法悦《ほうえつ》の状態にあったのです。慈愛ぶかい司教さまは永遠にいます父――神のごとくに見え、教会の円天井《まるてんじょう》のあなたに天国を見ていたのであります。
 この儀式をくわしくご存じでしょうが、まず浄祓式《ベネゼクション》がおこなわれ、それから、両種の聖餐拝受式《コミュニオン》、それから、てのひらに洗礼者の油を塗る抹油式《まつゆしき》、それが済んでか
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