は建物の総体から離れて、小さい裏庭の上に作られているのですから、あれを動かしたところで、建物の他の部分にはなんにも差支《さしつか》えはありますまい」
「そこで、わたしがその通りにしましたらば……」
「まず電信線を切りはずすのです。それをやってご覧なさい。もしその作業の指揮をわたしに任せて下さるなら、わたしがその工事費の半額を支払います」
「いや、それは私がみな負担します。その余のことは、書面で申し上げましょう」
四
それから十日ほどの後に、わたしはJ氏からの手紙をうけとった。
その報告によると、彼はわたしが帰ったあとで、かの家へ見廻りに行った。そうして、かの二通の手紙が再びもとの抽斗《ひきだし》に戻っているのを発見したので、彼もわたしと同じような疑いをもって読んだ。それからまた、わたしが推測した通りに、かの手紙の受け取り人であるらしい老婆の身の上を念入りに調べはじめると、手紙の日付けの一年前、すなわち今から三十六年前に彼女は親族の意志にさからって結婚した。男はアメリカ生まれのすこぶる怪しい人物で、世間からは海賊であると認められていた。彼女は信用の厚い商人の娘で、結
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