ことが分かりました」
「いや、詐欺というのとは違います。たとえば、わたしが突然に深い睡眠状態におちいって――それはあなたが揺り起こすことの出来ないような深い睡眠状態におちいったとして、その時わたしは眼ざめた後に訴えることの出来ないほど正確に、あなたの問いに答えることが出来ます。すなわちあなたのポケットにはいくらの金を持っているとか、あなたは何を考えているとか……そういうたぐいのことは詐欺というべきではなく、むしろ無理にしいられた一種の超自然的の作用ともいうべきものです。わたしは自分の知らないあいだに、遠方からある人間に催眠術をほどこされて、その交感関係に支配されていたのだと思うのです」
「かりに催眠術師が生きた人間に対してそういう感応《かんのう》をあたえ得るとしても、生きていないもの……すなわち椅子やドアのような物に対して、それを動かしたり、あけたりしめたりすることが出来るでしょうか」
「実際はそうでなくして、そういうふうに思わせるのかもしれません。普通に催眠術と称せられるものでは、もちろん、そんなことは出来ませんが、催眠術師のうちにも、一種の血統があるか、あるいはその術の特に優れた者
前へ 次へ
全54ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング