を願っていると、二人はあたかも絲《いと》にひかれるように、わたしの車室へ入り込んで来たので、占めたと思って見ていると、あいにく車内には空席が多かったので、かれらはわたしよりも遠く離れた隅の方の席に腰をおろした。
それでも二人はわたしを見付けて、遠方から黙礼した。わたしも黙礼した。さりとて馴《な》れなれしく其の近所へ席を移すわけにも行かないので、わたしは残念ながら遠目に眺めているほかはなかった。
かれらが今日もここから乗込んだのを見ると、おとといは次の駅でいったん下車して、さらに下り列車に乗りかえてFの町へ引っ返し、きのう一日は自宅にとどまって、きょうの午前に再び出て来たものらしく思われた。かれらの服装も行李もすべて先日の通りであった。私はなお注意して窺うと、兄も妹もその顔色が先日よりも更によくない。殊に妹の顔は著るしく蒼ざめているように見えた。
かれらはKの町から続々乗込んで来る蛇の群れに悩まされているのではないかなどと、私はいろいろの空想をめぐらしながらひそかにその行動を監視していたが、かれらの上に怪しいような点も見いだされなかった。妹は黙って俯向《うつむ》いていた。兄も黙って
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