ですよ。」と、車掌も子細ありげに言った。「なにしろ蛇の騒ぎを起すのは、Kの町から来る人に限るのですからな。」
「その蛇はどこへ行くつもりかな。」と、商人はかんがえた。
「そりゃ判りませんね。」
「判らないのが本当だろうが、なにかFの町の方へ行って祟《たた》るつもりらしい。」と、商人は何もかも見透しているように言った。「きっとFの町の誰かに恨みがあって、ぞろぞろ繋《つな》がって乗込むに相違ない。怪談、怪談、どうも気味がよくないな。」
 さっきの兄妹の顔がわたしの眼に浮かんだ。
 商人もそれに気がついたように又言い出した。
「そうすると、あの兄妹が蛇の話を聞いて顔の色を変えたのが少しおかしいぞ、あの二人はFの駅から乗ったんだから……。」
「どんな人たちでした。」と、車掌は訊いた。
 商人は二人の人相や風俗を説明して、彼らが途中から俄《にわ》かに下車したことを話すと、車掌も耳をすまして聴いていたが、さてそれが何者であるかを覚《さと》り得ないらしく、やがて私たちに会釈して立去った。

     二

 予定の通りに、わたしは岡山で弁当を買って食った。そうして、その日の夕方に神戸に着いた。そこで
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