ろうか。」
「さあ。」と、大原も首をひねった。かれも実は半信半疑であった。しかし自分は大きい魚に襲われ、さらにおそろしい藻におびやかされて、淵の底の隅々までも残らず見届けて来なかったのであるから、もしも一段の勇気を振るって、底の底まで根よく猟《あさ》り尽くしたらば、あるいは福井と同じようにその鐘の本体を見付けることが出来たのかも知れない。それを思うと、かれは一途《いちず》に福井をうたがうわけには行かなかったが、実際その鐘がどこかに横たわっていたならば、自分の眼にもはいりそうなものであったという気もするので、今や三上の問いに対して、かれは右とも左とも確かな返事をあたえることが出来なかった。
「どうもおかしいではないか。貴公にも見えない。おれにも見えないという鐘が、どうして福井の眼にだけ見えたのだろう。」と、三上は又ささやいた。「あいつ年が若いので、うろたえて何かを見違えたのではあるまいか。藻のなかに龍頭が光っていたなどというが、あいつも貴公とおなじように魚の眼の光るのでも見たのではないかな。」
そういえばそう疑われないこともない。大原はうなずいたままでまた考えていると、三上はつづけて言
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