自分の見たままを正直に申立てた。しかし唯おそろしくなって逃げ帰ったとは言われないので、かれは大きい魚と闘いながら、淵の底をくまなく見廻ったが、なにぶんにも鐘らしいものは見当らなかったと報告した。三上も大原も目的の鐘を発見しなかったは同様であるが、大原の方にはいろいろの冒険談があっただけに諸人の興味をひいた。かれの報告のいつわりでないのは、その左の脾腹に大きい紫の痣《あざ》を残しているのを見ても知られた。
つづいて第三番の福井文吾が水をくぐった。彼はやがて浮きあがって来て、こういう報告をした。
「淵の底には鐘が沈んでおります。一面の水草が取付いてそよいでおりますので、その大きさは確かに判りませぬが、鐘は横さまに倒れているらしく、薄暗いなかに龍頭《りゅうず》が光っておりました。」
かれは第一の殊勲者で、沈める鐘を明らかに見とどけたのである。将軍からも特別に賞美のことばを下された。
「文吾、大儀であった。その鐘を水の底に埋めておくのは無益じゃ。いずれ改めて引揚げさするであろう。」
鐘を引揚げるには相当の準備がいる。とても今すぐという訳にはいかないことは誰も知っているので、いずれ改めてと
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