西田さんは僕と懇意になり、またその僕が病気にならなければ、ここに下車してここに泊まるはずはあるまい。一方の夫婦――かれらが西田さんの推量通りであるならば――これもその女房が病気にならなかったら、おそらくここには泊まらずに行き過ぎてしまったであろう。かれらも偶然にここに泊まり、われわれも偶然にここに泊まりあわせて、娘の指輪はその父の手に戻ったのである。勿論それは偶然であろう。偶然といってしまえば、簡単明瞭に解決が付く。しかもそれは余りに平凡な月並式の解釈であって、この事件の背後にはもっと深い怖ろしい力がひそんでいるのではあるまいか。西田さんもこんなことを言いました。
「これはあなたのお蔭、もう一つには娘のたましいが私たちをここへ呼んだのかも知れません。」
「そうかも知れません。」
僕はおごそかに答えました。
われわれは翌日東京に着いて、新宿駅で西田さんに別れました。僕の宿は知らせておいたので、十月のなかば頃になって西田さんは訪ねて来てくれました。店の職人三人はだんだんに出て来たが、その一人はどうしても判らない。ともかくも元のところにバラックを建てて、この頃ようやく落ちついたということ
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