指輪一つ
岡本綺堂

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)飛騨《ひだ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一旦|立退《たちの》いて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぼう[#「ぼう」に傍点]として
−−

     一

「あのときは実に驚きました。もちろん、僕ばかりではない、誰だって驚いたに相違ありませんけれど、僕などはその中でもいっそう強いショックを受けた一人で、一時はまったくぼう[#「ぼう」に傍点]としてしまいました。」と、K君は言った。座中では最も年の若い私立大学生で、大正十二年の震災当時は飛騨《ひだ》の高山《たかやま》にいたというのである。

 あの年の夏は友人ふたりと三人づれで京都へ遊びに行って、それから大津のあたりにぶらぶらしていて、八月の二十日《はつか》過ぎに東京へ帰ることになったのです。それから真っ直ぐに帰ってくればよかったのですが、僕は大津にいるあいだに飛騨へ行った人の話を聞かされて、なんだか一種の仙境のような飛騨というところへ一度は踏み込んでみたいような気になって、帰りの途中でそのことを言い出
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