もかくも承知して別れる。宿へ帰る途中で再び折井君に逢う。折井君は汗をふきながら大活動の様子なり。しかもその活動を妨げるように、日が暮れると例の雷雨。
十二日、晴。神経が少し興奮しているせいか、けさは四時頃から眼がさめる。あさ飯の膳の出るのを待ちかねて、早々に食ってしまって散歩に出る。六兵衛老人の姿はけさも店先にあらわれず。お冬さんに訊けば、気分が悪いので奥に寝ているという。お冬さんの顔色もひどく悪し。予は思い切って「警察の人が何か調べに来ましたか。」と訊けば、誰も来ないという。少し安心して宿に帰れば、かの小せんという芸者が店口に腰をかけて帳場にいる女房と何か話している。まんざら知らない顔でもなければ、予も挨拶しながら並んで腰をおろすと、小せんはゆうべいろいろの取調べを受けた話をして、被害者の磯貝は財産家の息子で非常の放蕩者なり、自分は彼の贔屓《ひいき》になっていたれど、兇行の当夜はほかの座敷に出ていて何事も知らざりしという。予はそれとなく探《さぐ》りを入れて、磯貝はお冬さんと何かわけでもあったのかと訊けば、小せんは断じてそんなことはあるまいという。予はいよいよ安心して自分の座敷に戻
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