か。御上覧一件が大問題になって、自分も何かの係り合いになるのを恐れたのか。いずれにしても、自分に因縁のある此の小屋を死場所に選んだらしい。問題の猫はゆくえ知れずという事になっている。おそらく誰かがぶち殺して、大川へでも流してしまったのだろう。
 一匹の虎の子のために、お常と由兵衛は変死、友蔵と幸吉は遠島、こう祟られては化猫よりも怖ろしい。虎の話は先ずこれでおしまいだ。君のことだから、いずれ新聞か雑誌にでも書くのだろうが、春の読物にはおめでたくないからね。」
「いえ、結構です。ありがとうございました。」
「おや、もう帰るのか。君もずいぶん現金だね。はははは。」
[#地から2字上げ]昭和十二年十二月作「サンデー毎日」



底本:「鎧櫃の血」光文社文庫、光文社
   1988(昭和63)年5月20日初版1刷発行
   1988(昭和63)年5月30日2刷
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年6月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、
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