權三 (助十と顏を見あはせる。)あい、あい。きつと味方を致します。
六郎 よし、よし。それならば仕樣がある。(上のかたに向ひて。)おい、おい。誰か來てくれ。早く來てくれ。
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(上のかたより助八を先に、雲哲と願哲出づ。)
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六郎 おゝ、助八。おまへの家に麻繩のやうなものは三本ほどないか。
助八 さあ、三本はどうだかな、
おかん 内にも一本ぐらゐはありましたよ。
助八 なにしろ探して來ませう。
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(助八は我家に入る。おかんも奧に入る。)
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雲哲 用はもうそれだけかね。
六郎 いや、おまへ達もそこにゐてくれ。まだ外にも用があるのだ。
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(おかんは奧より麻繩一本持ちて出づ。)
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おかん これで間に合ひますかえ。
六郎 よし、よし。(繩をうけ取る。)
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(助八も奧より麻繩二本を持ちて出づ。)
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助八 大屋さん。これでいゝかね。
六郎 むゝ、これで丁度三本揃つた。
助八 そこで、これをどうしなさるのだ。
六郎 人間三人を縛《しば》るのだ。
一同 え。
權三 三人といふのは、誰と誰とを縛るんですね。
六郎 先づ貴樣を縛る。
權三 え。
六郎 それから助十を縛る。
助十 え。
六郎 それから彦三郎さんを縛る。
彦三郎 わたくしもお繩にかゝるのでござりますか。
六郎 この三人を數珠《じゆず》つなぎにして、南の御奉行所へ牽《ひ》いて行くのだ。
助八 いけねえ、いけねえ。あとの二人はどんな惡いことをしたか知らねえが、おれの兄貴に限つちやあ繩をかけられるやうな覺えはねえ筈だ。ふだんから兄弟喧嘩こそしてゐるが、おれに取つちやあ唯つた一人の兄貴だ。いはれも無しに繩附きにされて堪《たま》るものか。なんでおれの兄貴を縛るのだ。その譯をいへ。譯をいへ。
六郎 さうむき[#「むき」に傍点]になつて怒るなよ。これには譯のあることだ。こゝに
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