ば》をあらためて言った。
「それでは甚だ勝手がましゅうございますが、お金の代りにおねだり申したい物がございますが……。」
「大小は格別、そめほかの物ならばなんでも望め。」
「あのお兜をいただきたいのでございます。」
言われて、勘次郎は気がついた。彼は拾って来たかの兜を縁側に置いたままで、今まで忘れていたのであった。
「ああ、あれか。あれは途中で拾って来たのだ。」
「どこでお拾いなさいました。」
「根岸の路ばたに落ちていたのだ。どういう料簡《りょうけん》で拾って来たのか、自分にもわからない。」
かれは正直にこう言ったが、落武者の身で拾い物をして来たなどとあっては、いかにも卑しい浅ましい料簡のように思われて、この親子にさげすまれるのも残念であると、彼はまた正直にその理由を説明した。
「その兜は一度わたしの家にあった物だ。それがどうしてか往来に落ちていたので、つい拾って来たのだが、あんなものを持ち歩いていられるものではない。欲しければ置いて行くぞ。」
「ありがとうございます。」
兜は兜、金は金であるから、ぜひ受取ってくれと、勘次郎はかの小判を押付けたが、親子はどうしても受取らないので、
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