ません。その後のことも一切わかりませんが、多分それからそれへと流れ渡って、自分の異嗜性を満足させながら一生を送ったものであろうと察せられます。
こう申上げてしまえば、別に奇談でもなく、怪談でもなく、単にわたくしがそういう変態の夫を持ったというに過ぎないことになるのでございますが、唯ひとつ、私としていまだに不思議に感じられますのは、前に申上げた通り、わたくしが初めて縁談の申込みを受けました当夜に、いやな夢をみましたことで……。こんなお話をいたしますと、どなたもお笑いになるかも知れません、わたくし自身もまじめになって申上げにくいのですが――わたくしが鰻になって爼板の上に横たわっていますと、印半纏を着た片眼の男が錐を持ってわたくしの眼を突き刺そうとしました。その時には何とも思いませんでしたが、後になって考えると、それが夫の将来の姿を暗示していたように思われます。秋夫は片眼になって、千住のうなぎ屋の職人になって、印半纏を着て働いていたというではありませんか。
夢の研究も近来はたいそう進んでいるそうでございますから、そのうちに専門家をおたずね申して、この疑問をも解決いたしたいと存じております。
底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
初出:「オール讀物」
1931(昭和6)年10月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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