しも見せて貰いましたが、まったく好く出来ているように思われました。職人たちも感心していました。木地《きじ》は桂だろうということでした。」
「二つの人形は何を彫ったのですか。」
「それがまた怪奇なもので、どちらも若い女と怪獣の姿です。」
「怪獣……。」
「怪獣……。むかしの神話にも見当らないような怪獣……。むしろ妖怪といった方が、いいかも知れません。その怪獣と若い女……。こんな彫刻を写真に撮って、あなたの新聞にでも掲載してごらんなさい。たちまち叱られます。それで大抵はお察しくださいと言うのほかはありません。実に奇怪を極めたものです。そこで当然の問題は、いったい誰がこんな怪しからん物をこしらえて、この天井裏に隠して置いたかということですが……。あなたは誰の仕業《しわざ》だと鑑定します。」
「朝鮮だとか琉球だとかいう若い大工でしょう。」と、私はすぐに答えた。
「誰の考えも同じことですね。」と、博士はうなずいた。「あなたの鑑定通り、それは西山という若い大工の仕業に相違ないと、諸人の意見が一致しました。娘たちに挑《いど》んで、親方に殴られて、それから三晩ほどは外出して、いつも夜が更けて帰って来たという。おそらく何処へか行って、秘密にかの人形を彫刻していたのであろうと察せられます。そうして、誰にも覚《さと》られないように、その二つの人形を天井裏に忍ばせて置いたのでしょう。六畳の部屋は娘たちの居間です。彼はかねてそれを知っていて、その天井裏に不可解な人形を秘めて置いたのは、娘たちに対する一種の呪《のろ》いと認められます。職人たちの話を聴きますと、自分らの大工のあいだには、そんな奇怪な伝説はないといいます。してみると、彼が他国人であるとかいうのも、まんざら嘘でもないように思われます。彼は親方の家を立去った後、鹿児島へ帰った様子もなく、その消息は不明だそうです。あるいは自分の呪いを成就《じょうじゅ》させるために、どこかで自殺したのではないかという説もありますが、確かなことは判りません。」
「そうすると、その人形があった為に、S旅館の娘ふたりは俄かに淫蕩な女に変じたという訳ですね。」と、私はまだ幾分の疑いを抱きながら言った。「そこで、その娘たちはどうしました。」
「娘たちには隠して置こうとしたのですが、何分にも大勢が不思議がって騒ぎ立てるので、とうとう娘たちにも知れました。しかしその話
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