って聞き合せてみたら、まったく本当だそうだ。」
「妙な噂……。なんですか。」と、僕は顔をふきながら訊いた。
「どうも驚いたよ。町の中学のMという教員が小袋ヶ岡で死んでいたそうだ。」と、兄もさすがに顔の色を陰らせていた。
「どうして死んだのですか。」
「それが判らない。ゆうべの九時過ぎに、青年団が小袋ヶ岡へ登って行くと、明神跡の石の上に腰をかけている男がある。洋服を着て、ただ黙って俯向《うつむ》いているので、だんだん近寄って調べてみると、それはかの中学教員で、からだはもう冷たくなっている。それから大騒ぎになっていろいろ介抱してみたが、どうしても生き返らないので、もう探険どころじゃあない。その死骸を町へ運ぶやら、医師を呼ぶやら、なかなかの騒ぎであったそうだが、おれの家では前夜の疲れでよく寝込んでしまって、そんなことはちっとも知らなかった。」
 この話を聞いているあいだに、僕はきのう出会った洋服の男を思い出した。その年頃や人相をきいてみると、いよいよ彼によく似ているらしく思われた。
「それで、その教員はとうとう死んでしまったのですね。」
「むむ、どうしても助からなかったそうだ。その死因はよく
前へ 次へ
全24ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング