上からも又《また》樹液運行の上からも必要としない。この形になることが要領じゃ。わかったか。六番」
兵卒六「わかりました。カンデラーブル、U字形であります。」
大将「よろしい。果樹整枝法その三、カンデラーブル、はじめっ一、二、一、二、一、二、一、二、やめい。」
大将「よろしい。果樹整枝法その四、又その一、水平コルドン。はじめっ。一、二、一、二、一、二、一、二、一、やめい。」
大将「次はその又二、直立コルドン。これはこのままでよろしい。ただ呼称だけを用うる。一、二、一、二、よろしいか。八番。」
兵卒八「直立コルドンであります。」
大将「よろしい。果樹整枝法、その四、又その二、直立コルドン、はじめっ、一、二、一、二、一、二、一、二、一、やめい。」
大将「次は、エーベンタール、扇状《せんじょう》仕立、この形をつくる。このエーベンタールのベースとちがう所は手とからだとが一平面内にあることにある。よろしいか。九番。」
兵士九「はいっ。果樹整枝法その五、エーベンタールであります。」
大将「よろしい。果樹整枝法、その五、エーベンタール、はじめっ、一、二、一、二、一、二、一、やめい。」
大将「次は果樹整枝法、その六、棚《たな》仕立、これは日本に於《おい》て梨《なし》葡萄《ぶどう》等の栽培《さいばい》に際して行われるじゃ。棚をつくる。棚を。わかったか。十番。」
兵士十「果樹整枝法第六、棚仕立であります。」
大将「よろしい。果樹整枝法第六棚仕立、はじめっ。一」
[#ここから2字下げ]
(兵士ら腕を組み棚をつくる。バナナン大将|手籠《てかご》を持ちてその下を潜《くぐ》りしきりに果実を収む。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
バナナン大将「実に立派じゃ、この実はみな琥珀《こはく》でつくってある。それでいて琥珀のようにおかしな匂《におい》でもない。甘《あま》いつめたい汁《しる》でいっぱいじゃ。新鮮なエステルにみちている。しかもこの宝石は数も多く人をもなやまさないじゃ。来年もまたみのるじゃ。ありがたい。又この葉の美しいことはまさに黄金《きん》じゃ。日光来りて葉緑を照徹《しょうてつ》すれば葉緑黄金を生ずるじゃ。讃《たた》うべきかな神よ。」
[#ここから2字下げ]
(将軍籠にくだものを盛《も》りて出《い》で来る。手帳を出しすばやく何か書きつく、特務曹長に渡《わた》す、順次列中に渡る、唱《うた》いつつ行進す。兵士これに続く。)
バナナン大将の行進歌
[#ここで字下げ終わり]
合唱「いさおかがやく バナナン軍
[#ここから3字下げ]
マルトン原に  たむろせど
荒《す》さびし山河《さんが》の すべもなく
饑餓《きが》の 陣営《じんえい》  日にわたり
夜をもこむれば つわものの
ダムダム弾や  葡萄弾
毒瓦斯《どくガス》タンクは 恐《おそ》れねど
うえとつかれを いかにせん。
やむなく食《は》みし 将軍の
かがやきわたる 勲章と
ひかりまばゆき エボレット
そのまがつみは 録《しる》されぬ。
あわれ二人の  つわものは
責に死なんと  したりしに
このとき雲の  かなたより
神ははるかに  みそなわし
くだしたまえる みめぐみは
新式生産体操ぞ。
ベースピラミッド カンデラブル
またパルメット エーベンタール
ことにも二つの コルドンと
棚の仕立に   いたりしに
ひかりのごとく 降《くだ》り来し
天の果実を   いかにせん。
みさかえはあれ かがやきの
あめとしめりの くろつちに
みさかえはあれ かがやきの
あめとしめりの くろつちに。」
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]幕。



底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
   1989(平成元)年6月15日発行
   1994(平成6)年6月5日13刷
※底本で、「バナナン大将」「バナナン軍団」の「ン」はすべて小書きです。
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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