わかりません。たゞどこまでも十力《じふりき》の作用は不思議です。こゝはもういつまでも子供たちの美しい公園地です。どうでせう。こゝに虔十公園林と名をつけていつまでもこの通り保存するやうにしては。」
「これは全くお考へつきです。さうなれば子供らもどんなにしあはせか知れません。」
 さてみんなその通りになりました。
 芝生のまん中、子供らの林の前に
「虔十公園林」と彫った青い橄欖岩《かんらんがん》の碑が建ちました。
 昔のその学校の生徒、今はもう立派な検事になったり将校になったり海の向ふに小さいながら農園を有《も》ったりしてゐる人たちから沢山の手紙やお金が学校に集まって来ました。
 虔十のうちの人たちはほんたうによろこんで泣きました。
 全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、さはやかな匂《にほひ》、夏のすゞしい陰、月光色の芝生がこれから何千人の人たちに本当のさいはひが何だかを教へるか数へられませんでした。
 そして林は虔十の居た時の通り雨が降ってはすき徹《とほ》る冷たい雫《しづく》をみじかい草にポタリポタリと落しお日さまが輝いては新らしい奇麗な空気をさはやかにはき出すのでした。



底本:「新修宮沢賢治全集 第十一巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年11月15日初版第1刷発行
   1983(昭和58)年12月20日初版第5刷発行
入力:林 幸雄
校正:土屋隆
2007年4月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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