した。
狼《オイノ》は、どうしたらいゝか困つたといふやうにしばらくきよろ/\してゐましたが、たうとうみんないちどに森のもつと奥の方へ逃げて行きました。
そこでみんなは、子供らの手を引いて、森を出ようとしました。すると森の奥の方で狼どもが、
「悪く思はないで呉《け》ろ。栗《くり》だのきのこだの、うんとご馳走《ちそう》したぞ。」と叫ぶのがきこえました。みんなはうちに帰つてから粟餅《あはもち》をこしらへてお礼に狼森へ置いて来ました。
春になりました。そして子供が十一人になりました。馬が二|疋《ひき》来ました。畠《はたけ》には、草や腐つた木の葉が、馬の肥《こえ》と一緒に入りましたので、粟や稗《ひえ》はまつさをに延びました。
そして実もよくとれたのです。秋の末のみんなのよろこびやうといつたらありませんでした。
ところが、ある霜柱のたつたつめたい朝でした。
みんなは、今年も野原を起して、畠をひろげてゐましたので、その朝も仕事に出ようとして農具をさがしますと、どこの家《うち》にも山刀《なた》も三本鍬《さんぼんぐは》も唐鍬《たうぐは》も一つもありませんでした。
みんなは一生懸命そこらをさがしましたが、どうしても見附かりませんでした。それで仕方なく、めい/\すきな方へ向いて、いつしよにたかく叫びました。
「おらの道具知らないかあ。」
「知らないぞお。」と森は一ぺんにこたへました。
「さがしに行くぞお。」とみんなは叫びました。
「来お。」と森は一斉に答へました。
みんなは、こんどはなんにももたないで、ぞろ/\森の方へ行きました。はじめはまづ一番近い狼森《オイノもり》に行きました。
すると、すぐ狼が九《く》疋出て来て、みんなまじめな顔をして、手をせわしくふつて云ひました。
「無い、無い、決して無い、無い。外をさがして無かつたら、もう一ぺんおいで。」
みんなは、尤《もつと》もだと思つて、それから西の方の笊森《ざるもり》に行きました。そしてだん/\森の奥へ入つて行きますと、一本の古い柏《かしは》の木の下に、木の枝であんだ大きな笊が伏せてありました。
「こいつはどうもあやしいぞ。笊森の笊はもつともだが、中には何があるかわからない。一つあけて見よう。」と云ひながらそれをあけて見ますと、中には無くなつた農具が九つとも、ちやんとはひつてゐました。
それどころではなく、まんなかに
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