たよ。たしか夜鷹《よだか》もさう云ったし、烏《からす》も云ってゐたやうだよ。」
梟はにが笑ひをしてごまかさうとしました。
「仲々ご交際が広うごわすな。」
私はごまかさせませんでした。
「とにかくほんたうにさうだらうかね。それとも君の友達の、夜鷹がうそを云ったらうか。」
梟は、しばらくもぢもぢしてゐましたが、やっと一言、
「そいつはあだ名でさ。」とぶっ切ら棒に云って横を向きました。
「おや、あだ名かい。誰の、誰の、え、おい。猫ってのは誰のあだ名だい。」
梟《ふくろふ》はもう足を一寸《ちょっと》枝からはづして、あげてお月さまにすかして見たり、大へんこまったやうでしたが、おしまひ仕方なしにあらん限り変な顔をしながら、
「わたしのでさ。」と白状しました。
「さうか、君のあだ名か。君のあだ名を猫《ねこ》といったのかい。ちっとも猫に似てないやな。」
なあにまるっきり猫そっくりなんだと思ひながら、私はつくづく梟の顔を見ました。
梟はいかにもまぶしさうに、眼をぱちぱちして横を向いて居《を》りましたが、たうとう泣き出しさうになりました。私もすっかりあわてました。下手《へた》にからかって、梟に泣かれたんでは、全く気の毒でしたし、第一折角あんなに機嫌《きげん》よく、私にはなしかけたものを、ひやかしてやめさせてしまふなんて、あんまり私も心持ちがよくありませんでした。
「じっさい鳥はさまざまだねえ。
はじめは形や声だけさまざまでも、はねのいろはみんな同じで白かったんだねえ。それがどうして今のやうに、みんな変ってしまったらう。尤《もっと》も鷺《さぎ》や鵠《こふ》は、今でもからだ中まっ白だけれど、それは変らなかったのだらうねえ。」
梟は私が斯《か》う云ふ間に、だんだん顔をこっちへ直して、おしまひごろはもう頭をすこしうごかしてうなづきながら、私の云ふのに調子をとってゐたのです。
「それはもう立派な訳がございます。
ぜんたいみんなまっ白では、
ずゐぶん間ちがひなども多ございました。
たとへばよく雉子《きじ》や山鳥などが、うしろから
『四十雀《しじふから》さん、こんにちは。』とやりますと、変な顔をしながらだまって振り向くのがひはだったり、小さな鳥どもが木の上にゐて、
『ひはさん、いらっしやいよ。』なんて遠くから呼びますのに、それが頬白《ほほじろ》で自分よりもひはのことをよく思って
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