かくじぶんで播いたりした、粟も一口たべただけ、水をがぶがぶ呑《の》んでゐた。ところが秋の終りになると、水もさつぱり呑まなくなつて、ときどき空を見上げては何かしやつくりするやうなきたいな形をたびたびした。
そのうちいつか将軍は、どこにも形が見えなくなつた。そこでみんなは将軍さまは、もう仙人《せんにん》になつたと云つて、ス山の山のいたゞきへ小さなお堂をこしらへて、あの白馬《しろうま》は神馬に祭り、あかしや粟をさゝげたり、麻ののぼりをたてたりした。
けれどもこのとき国手になつた例のリンパー先生は、会ふ人ごとに斯ういつた。
「どうして、バーユー将軍が、雲だけ食つた筈《はず》はない。おれはバーユー将軍の、からだをよくみて知つてゐる。肺と胃の腑《ふ》は同じでない。きつとどこかの林の中に、お骨があるにちがひない。」なるほどさうかもしれないと思つた人もたくさんあつた。
底本:「新修宮沢賢治全集 第十三巻」筑摩書房
1980(昭和55)年3月15日初版第1刷発行
1983(昭和58)年6月30日初版第5刷発行
初出:「児童文学 第一冊」
1931(昭和6)年7月20日発行
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2003年9月4日作成
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