マニトリテ来シ、 木ノ芽ノ数ヲトリカハシ、
アルイハ百合ノ五|塊《タマ》ヲ、 ナガ大母ニ持テトイフ。
ヤガテ高木モ夜トナレバ、 サラニアシタヲ云ヒカハシ、
ヒトビトオノモ松ノ野ヲ、 ワギ家ノカタヘイソギケリ。
〔みちべの苔にまどろめば〕
みちべの苔にまどろめば、 日輪そらにさむくして、
わづかによどむ風くまの、 きみが頬ちかくあるごとし。
まがつびここに塚ありと、 おどろき離《か》るゝこの森や、
風はみそらに遠くして、 山なみ雪にたゞあえかなる。
〔二山の瓜を運びて〕
二山の瓜を運びて、 舟いだす酒のみの祖父《ぢぢ》。
たなばたの色紙購ふと、 追ひすがる赤|髪《け》のうなゐ。
ま青なる天弧の下を、 きららかに町はめぐりつ。
ここにして集へる川の、 はてしなみ萌ゆるうたかた。
〔けむりは時に丘丘の〕
けむりは時に丘丘の、 栗の赤葉に立ちまどひ、
あるとき黄なるやどり木は、 ひかりて窓をよぎりけり。
(あはれ土耳古玉《タキス》のそらのいろ、 かしこいづれの天なるや)
(かしこにあらずこゝならず、 われらはしかく習ふのみ。)
(浮屠らも天を云ひ伝へ、 三十三を数ふなり、
上の無色にいたりては、 光、思想を食めるのみ。)
そらのひかりのきはみなく、 ひるのたびぢの遠ければ、
をとめは餓ゑてすべもなく、 胸なる珞《たま》をゆさぶりぬ。
〔遠く琥珀のいろなして〕
遠く琥珀のいろなして、 春べと見えしこの原は、
枯草《くさ》をひたして雪げ水、 さゞめきしげく奔るなり。
峯には青き雪けむり、 裾は柏の赤ばやし、
雪げの水はきらめきて、 たゞひたすらにまろぶなり。
心相
こころの師とはならんとも、 こころを師とはなさざれと、
いましめ古りしさながらに、 たよりなきこそこゝろなれ。
はじめは潜む蒼穹に、 あはれ鵞王の影供ぞと、
面さへ映えて仰ぎしを、 いまは酸えしておぞましき、
澱粉堆とあざわらひ、
いたゞきすべる雪雲を、 腐《くだ》せし馬鈴薯とさげすみぬ。
肖像
朝のテニスを慨《なげか》ひて、 額は貢《たか》し 雪の風。
入りて原簿を閲すれば、 その手砒硫の香にけぶる。
暁眠
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