日の出前
学校は、 稗と粟との野末にて、 朝の黄雲に濯はれてあり。
学校の、 ガラス片《ひら》ごとかゞやきて、 あるはうつろのごとくなりけり。
岩手山巓
外輪山の夜明け方、 息吹きも白み競ひ立ち、
三十三の石神に、 米《よね》を注ぎて奔り行く。
雲のわだつみ洞なして、 青野うるうる川湧けば、
あなや春日のおん帯と、 もろびと立ちてをろがみぬ。
車中〔二〕
稜堀山の巌の稜、 一|木《き》を宙に旋るころ
まなじり深き伯楽《はくらく》は、 しんぶんをこそひろげたれ。
地平は雪と藍の松、 氷を着るは七時雨、
ばらのむすめはくつろぎて、 けいとのまりをとりいでぬ。
化物丁場
すなどりびとのかたちして、 つるはしふるふ山かげの、
化物丁場しみじみと、 水湧きいでて春寒き。
峡のけむりのくらければ、 山はに円く白きもの、
おそらくそれぞ日ならんと、 親方《ボス》もさびしく仰ぎけり。
開墾地落上
白髪かざして高清は、 ブロージットと云へるなり。
松の岩頸 春の雲、 コップに小く映るなり。
ゲメンゲラーゲさながらを、 焦げ木はかつとにほふなり。
額を拍ちて高清は、 また鶯を聴けるなり。
〔鶯宿はこの月の夜を雪降るらし〕
鶯宿はこの月の夜を雪降るらし。
鶯宿はこの月の夜を雪降るらし、 黒雲そこにてたゞ乱れたり。
七つ森の雪にうづみしひとつなり、 けむりの下を逼りくるもの。
月の下なる七つ森のそのひとつなり、 かすかに雪の皺たゝむもの。
月をうけし七つ森のはてのひとつなり、 さびしき谷をうちいだくもの。
月の下なる七つ森のその三つなり、 小松まばらに雪を着るもの。
月の下なる七つ森のその二つなり、 オリオンと白き雲とをいたゞけるもの。
七つ森の二つがなかのひとつなり、 鉱石《かね》など掘りしあとのあるもの。
月の下なる七つ森のなかの一つなり、 雪白々と裾を引くもの。
月の下なる七つ森のその三つなり、 白々として起伏するもの。
七つ森の三つがなかの一つなり、 貝のぼたんをあまた噴くもの。
月の下なる七つ森のはての一つなり、 けはしく白く稜立てるもの。
稜立てる七つ森のそのはてのもの
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