まわしました。嘉助は水を飲んだと見えて、霧をふいてごぼごぼむせて、
「おいらもうやめた。こんな鬼っこもうしない。」と言いました。小さな子どもらはみんな砂利《じゃり》に上がってしまいました。
三郎はひとりさいかちの木の下に立ちました。
ところが、そのときはもうそらがいっぱいの黒い雲で、楊《やなぎ》も変に白っぽくなり、山の草はしんしんとくらくなり、そこらはなんとも言われない恐ろしい景色にかわっていました。
そのうちに、いきなり上の野原のあたりで、ごろごろごろと雷が鳴り出しました。と思うと、まるで山つなみのような音がして、一ぺんに夕立がやって来ました。風までひゅうひゅう吹きだしました。
淵《ふち》の水には、大きなぶちぶちがたくさんできて、水だか石だかわからなくなってしまいました。
みんなは河原から着物をかかえて、ねむの木の下へ逃げこみました。すると三郎もなんだかはじめてこわくなったと見えて、さいかちの木の下からどぼんと水へはいってみんなのほうへ泳ぎだしました。
すると、だれともなく、
「雨はざっこざっこ雨三郎、
風はどっこどっこ又三郎。」と叫んだものがありました。
みんなもすぐ声をそろえて叫びました。
「雨はざっこざっこ雨三郎、
風はどっこどっこ又三郎。」
三郎はまるであわてて、何かに足をひっぱられるようにして淵《ふち》からとびあがって、一目散にみんなのところに走って来て、がたがたふるえながら、
「いま叫んだのはおまえらだちかい。」とききました。
「そでない、そでない。」みんないっしょに叫びました。
ぺ吉がまた一人出て来て、
「そでない。」と言いました。
三郎は気味悪そうに川のほうを見ていましたが、色のあせたくちびるを、いつものようにきっとかんで、「なんだい。」と言いましたが、からだはやはりがくがくふるえていました。
そしてみんなは、雨のはれ間を待って、めいめいのうちへ帰ったのです。
どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう
どっどど どどうど どどうど どどう
先ごろ、三郎から聞いたばかりのあの歌を一郎は夢の中でまたきいたのです。
びっくりしてはね起きて見ると、外ではほんとうにひどく風が吹いて、林はまるでほえるよう、あけが
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