ぎはじめました。前にいたこどもらもあとから追い付いて泳ぎはじめました。三郎もきものをぬいでみんなのあとから泳ぎはじめましたが、途中で声をあげてわらいました。すると向こう岸についた一郎が、髪をあざらしのようにしてくちびるを紫にしてわくわくふるえながら、
「わあ又三郎、何してわらった。」と言いました。
 三郎はやっぱりふるえながら水からあがって、
「この川冷たいなあ。」と言いました。
「又三郎何してわらった?」一郎はまたききました。
 三郎は、
「おまえたちの泳ぎ方はおかしいや。なぜ足をだぶだぶ鳴らすんだい。」と言いながらまた笑いました。
「うわあい。」と一郎は言いましたが、なんだかきまりが悪くなったように、
「石取りさないが。」と言いながら白い丸い石をひろいました。
「するする。」こどもらがみんな叫びました。
「おれそれであ、あの木の上がら落とすがらな。」と一郎は言いながら崖《がけ》の中ごろから出ているさいかちの木へするするのぼって行きました。そして、
「さあ落とすぞ。一二三。」と言いながらその白い石をどぶん、と淵《ふち》へ落としました。
 みんなはわれ勝ちに岸からまっさかさまに水にとび込んで、青白いらっこのような形をして底へもぐって、その石をとろうとしました。
 けれどもみんな底まで行かないに息がつまって浮かびだして来て、かわるがわるふうとそこらへ霧をふきました。
 三郎はじっとみんなのするのを見ていましたが、みんなが浮かんできてからじぶんもどぶんとはいって行きました。けれどもやっぱり底まで届かずに浮いてきたのでみんなはどっと笑いました。そのとき向こうの河原のねむの木のところを大人《おとな》が四人、肌《はだ》ぬぎになったり、網をもったりしてこっちへ来るのでした。
 すると一郎は木の上でまるで声をひくくしてみんなに叫びました。
「おお、発破《はっぱ》だぞ。知らないふりしてろ。石とりやめで早ぐみんな下流《しも》ささがれ。」そこでみんなは、なるべくそっちを見ないふりをしながら、いっしょに砥石《といし》をひろったり、鶺鴒《せきれい》を追ったりして、発破のことなぞ、すこしも気がつかないふりをしていました。
 すると向こうの淵《ふち》の岸では、下流の坑夫をしていた庄助《しょうすけ》が、しばらくあちこち見まわしてから、いきなりあぐらをかいて砂利《じゃり》の上へすわってしまいました
前へ 次へ
全33ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング