と別のことを言おうと思いましたが、あんまりおこってしまって考え出すことができませんでしたのでまた同じように叫びました。
「うあい、うあいだ、又三郎、うなみだいな風《かぜ》など世界じゅうになくてもいいなあ、うわあい。」
「失敬したよ、だってあんまりきみもぼくへ意地悪をするもんだから。」三郎は少し目をパチパチさせて気の毒そうに言いました。けれども耕助のいかりはなかなか解けませんでした。そして三度同じことをくりかえしたのです。
「うわい又三郎、風などあ世界じゅうになくてもいいな、うわい。」
すると三郎は少しおもしろくなったようでまたくつくつ笑いだしてたずねました。
「風が世界じゅうになくってもいいってどういうんだい。いいと箇条をたてていってごらん。そら。」三郎は先生みたいな顔つきをして指を一本だしました。
耕助は試験のようだし、つまらないことになったと思ってたいへんくやしかったのですが、しかたなくしばらく考えてから言いました。
「汝《うな》など悪戯《わるさ》ばりさな、傘《かさ》ぶっこわしたり。」
「それからそれから。」三郎はおもしろそうに一足進んで言いました。
「それがら木折ったり転覆したりさな。」
「それから、それからどうだい。」
「家もぶっこわさな。」
「それから。それから、あとはどうだい。」
「あかしも消さな。」
「それからあとは? それからあとは? どうだい。」
「シャップもとばさな。」
「それから? それからあとは? あとはどうだい。」
「笠《かさ》もとばさな。」
「それからそれから。」
「それがら、ラ、ラ、電信ばしらも倒さな。」
「それから? それから? それから?」
「それがら屋根もとばさな。」
「アアハハハ、屋根は家のうちだい。どうだいまだあるかい。それから、それから?」
「それだがら、ララ、それだからランプも消さな。」
「アアハハハハ、ランプはあかしのうちだい。けれどそれだけかい。え、おい。それから? それからそれから。」
耕助はつまってしまいました。たいていもう言ってしまったのですから、いくら考えてももうできませんでした。
三郎はいよいよおもしろそうに指を一本立てながら、
「それから? それから? ええ? それから?」と言うのでした。
耕助は顔を赤くしてしばらく考えてからやっと答えました。
「風車もぶっこわさな。」
すると三郎はこんどこそは
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