漬《つ》けたよ。」と言いました。
「葡萄《ぶどう》とりにおらも連れでがないが。」二年生の承吉《しょうきち》も言いました。
「わがないぢゃ。うなどさ教えるやないぢゃ。おら去年な新しいどご見つけだぢゃ。」
みんなは学校の済むのが待ち遠しかったのでした。五時間目が終わると、一郎と嘉助と佐太郎と耕助と悦治と三郎と六人で学校から上流のほうへ登って行きました。少し行くと一けんの藁《わら》やねの家があって、その前に小さなたばこ畑がありました。たばこの木はもう下のほうの葉をつんであるので、その青い茎が林のようにきれいにならんでいかにもおもしろそうでした。
すると三郎はいきなり、
「なんだい、この葉は。」と言いながら葉を一枚むしって一郎に見せました。すると一郎はびっくりして、
「わあ、又三郎、たばごの葉とるづど専売局にうんとしかられるぞ。わあ、又三郎何してとった。」と少し顔いろを悪くして言いました。みんなも口々に言いました。
「わあい。専売局であ、この葉一枚ずつ数えで帳面さつけでるだ。おら知らないぞ。」
「おらも知らないぞ。」
「おらも知らないぞ。」みんな口をそろえてはやしました。
すると三郎は顔をまっ赤《か》にして、しばらくそれを振り回して何か言おうと考えていましたが、
「おら知らないでとったんだい。」とおこったように言いました。
みんなはこわそうに、だれか見ていないかというように向こうの家を見ました。たばこばたけからもうもうとあがる湯げの向こうで、その家はしいんとしてだれもいたようではありませんでした。
「あの家一年生の小助《こすけ》の家だぢゃい。」嘉助が少しなだめるように言いました。ところが耕助ははじめからじぶんの見つけた葡萄藪《ぶどうやぶ》へ、三郎だのみんなあんまり来ておもしろくなかったもんですから、意地悪くもいちど三郎に言いました。
「わあ、三郎なんぼ知らないたってわがないんだぢゃ。わあい、三郎もどのとおりにしてまゆんだであ。」
三郎は困ったようにしてまたしばらくだまっていましたが、
「そんなら、おいらここへ置いてくからいいや。」と言いながらさっきの木の根もとへそっとその葉を置きました。すると一郎は、
「早くあべ。」と言って先にたってあるきだしましたのでみんなもついて行きましたが、耕助だけはまだ残って「ほう、おら知らないぞ。ありゃ、又三郎の置いた葉、あすごにあるぢ
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