ではいって来たどての切れた所へ来たのです。
「あ、馬出はる、馬出はる。押えろ 押えろ。」一郎はまっ青《さお》になって叫びました。じっさい馬はどての外へ出たのらしいのでした。どんどん走って、もうさっきの丸太の棒を越えそうになりました。
一郎はまるであわてて、
「どう、どう、どうどう。」と言いながら一生けん命走って行って、やっとそこへ着いてまるでころぶようにしながら手をひろげたときは、そのときはもう二匹は柵《さく》の外へ出ていたのです。
「早ぐ来て押えろ。早ぐ来て。」一郎は息も切れるように叫びながら丸太棒をもとのようにしました。
四人は走って行って急いで丸太をくぐって外へ出ますと、二匹の馬はもう走るでもなく、どての外に立って草を口で引っぱって抜くようにしています。
「そろそろど押えろよ。そろそろど。」と言いながら一郎は一ぴきのくつわについた札のところをしっかり押えました。嘉助と三郎がもう一匹を押えようとそばへ寄りますと、馬はまるでおどろいたようにどてへ沿って一目散に南のほうへ走ってしまいました。
「兄《あい》な、馬あ逃げる、馬あ逃げる。兄《あい》な、馬逃げる。」とうしろで一郎が一生けん命叫んでいます。三郎と嘉助は一生けん命馬を追いました。
ところが馬はもう今度こそほんとうに逃げるつもりらしかったのです。まるで丈《たけ》ぐらいある草をわけて高みになったり低くなったり、どこまでも走りました。
嘉助はもう足がしびれてしまって、どこをどう走っているのかわからなくなりました。
それからまわりがまっ蒼《さお》になって、ぐるぐる回り、とうとう深い草の中に倒れてしまいました。馬の赤いたてがみと、あとを追って行く三郎の白いシャッポが終わりにちらっと見えました。
嘉助は、仰向けになって空を見ました。空がまっ白に光って、ぐるぐる回り、そのこちらを薄いねずみ色の雲が、速く速く走っています。そしてカンカン鳴っています。
嘉助はやっと起き上がって、せかせか息しながら馬の行ったほうに歩き出しました。草の中には、今馬と三郎が通った跡らしく、かすかな道のようなものがありました。嘉助は笑いました。そして、(ふん、なあに馬どこかでこわくなってのっこり立ってるさ、)と思いました。
そこで嘉助は、一生懸命それをつけて行きました。
ところがその跡のようなものは、まだ百歩も行かないうちに、おとこえ
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