ぐに立ってしきりにそのこしらへた蕈の公園をながめてゐるやうでしたが間もなく
「だめだよ、きのこの方はやっぱりだめだ。もし知れたら大へんだ。」
「うん、どうもあぶないと僕も思った。こっちは止《よ》さう。とってしまはう。その辺へかくして置いてあとで我われがとったといふことにしてお嬢さんにでも上げればいゝぢゃないか。その方が安全だよ。」といふのがはっきり聞えました。私たちは又顔を見合せました。
 そして思はずふき出してしまひました。
 それから一目散に遁《に》げました。
 けれどももう役人は追って来ませんでした。その日の晩方おそく私たちはひどくまはりみちをしてうちへ帰りましたが東北長官はひるころ野原へ着いて夕方まで家族と一緒に大へん面白く遊んで帰ったといふことを聞きました。その次の年私どもは町の中学校に入りましたがあの二人の役人にも時々あひました。二人はステッキをふったり包みをかゝへたり又競馬などで酔って顔を赤くして叫んだりしてゐました。私たちはちゃんとおぼえてゐたのです。けれども向ふではいつも、どうも見たことのある子供だが思ひ出せないといふやうな顔をするのでした。



底本:「新修宮沢賢治全集 第九巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年7月15日初版第1刷発行
   1983(昭和58)年2月20日初版第5刷発行
底本の親本:「校本宮澤賢治全集」筑摩書房
入力:田代信行
校正:伊藤時也
2000年9月13日公開
2005年10月18日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング