す。」その教授が云ひました。
「どれ拝見。」私もそれをのぞき込みました。
 全く槍のやうな形の、するどい鱗粉が、青色リトマスで一帯に青く染まって、その中に中軸だけが暗赤色に見えたのです。
「いや、ありがたう。大へんないゝものを拝見しました。どうです。学校にも大分被害者があったでせう。」私は云ひました。
「いゝえ。なあに、毒蛾なんて、てんでこの町には発生《で》なかったんです。昨夜、こいつ一|疋《ぴき》見つけるのに、四時間もかかったのです。」
 一人の教授が答へました。
 そして私は大声に笑ったのです。



底本:「新修宮沢賢治全集 第九巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年7月15日初版第1刷
   1983(昭和58)年12月20日初版第6刷
※底本は旧仮名ですが、拗促音は小書きされています。これにならい、ルビの拗促音も、小書きにしました。
入力:林 幸雄
校正:土屋隆
2008年2月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全8ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング