りくやしくて、しばらく熱病になって、
「うう、くもめ、よくもぶじょくしたな。うう。くもめ。」といってゐました。
網は時々風にやぶれたりごろつきのかぶとむしにこはされたりしましたけれどもくもはすぐすうすう糸をはいて修繕しました。
二百疋の子供は百九十八疋まで蟻《あり》に連れて行かれたり、行衛《ゆくゑ》不明になったり、赤痢にかかったりして死んでしまひました。
けれども子供らは、どれもあんまりお互ひに似てゐましたので、親ぐもはすぐ忘れてしまひました。
そして今はもう網はすばらしいものです。虫がどんどんひっかゝります。
ある日夫婦の蜘蛛《くも》は、葉のかげにかくれてまた茶をのんでゐますと、一疋の旅の蚊がこっちへ飛んで来て、それから網を見てあわてて飛び戻って行った。くもは三あしばかりそっちへ出て行ってあきれたやうにそっちを見送った。
すると下の方で大きな笑ひ声がしてそれから太い声で歌ふのが聞えました。
「あぁかいてながのくぅも、
てながの赤いくも
あんまり網がまづいので、
八千二百里旅の蚊も、
くうんとうなってまはれ右。」
見るとそれは顔を洗ったことのない狸《たぬき》でした
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