室はけむりのやうに消え、二人は寒さにぶるぶるふるへて、草の中に立つてゐました。
 見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あつちの枝にぶらさがつたり、こつちの根もとにちらばつたりしてゐます。風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
 犬がふうとうなつて戻つてきました。
 そしてうしろからは、
「旦那《だんな》あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。
 二人は俄《には》かに元気がついて
「おゝい、おゝい、こゝだぞ、早く来い。」と叫びました。
 簔帽子《みのばうし》をかぶつた専門の猟師が、草をざわざわ分けてやつてきました。
 そこで二人はやつと安心しました。
 そして猟師のもつてきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買つて東京に帰りました。
 しかし、さつき一ぺん紙くづのやうになつた二人の顔だけは、東京に帰つても、お湯にはひつても、もうもとのとほりになほりませんでした。



底本:「宮沢賢治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
   1986(昭和61)年1月28日第1刷発行
   2004(平成16)年4月25日第20刷発行
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
   1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年2月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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