うか空の王様によろしく。私どももいつか許されますようおねがいいたします。」
二人は一緒《いっしょ》に云いました。
「きっとそう申しあげます。やがて空でまたお目にかかりましょう。」
竜巻がそろりそろりと立ちあがりました。
「さよなら、さよなら。」
竜巻はもう頭をまっくろな海の上に出しました。と思うと急にバリバリバリッと烈《はげ》しい音がして竜巻は水と一所に矢のように高く高くはせのぼりました。
まだ夜があけるのに余程《よほど》間があります。天の川がずんずん近くなります。二人のお宮がもうはっきり見えます。
「一寸《ちょっと》あれをご覧なさい。」と闇《やみ》の中で竜巻が申しました。
見るとあの大きな青白い光りのほうきぼしはばらばらにわかれてしまって頭も尾も胴も別々にきちがいのような凄《すご》い声をあげガリガリ光ってまっ黒な海の中に落ちて行きます。
「あいつはなまこになりますよ。」と竜巻がしずかに云いました。
もう空の星めぐりの歌が聞えます。
そして童子たちはお宮につきました。
竜巻は二人をおろして
「さよなら、ごきげんよろしゅう」と云いながら風のように海に帰って行きました。
双子のお星さまはめいめいのお宮に昇りました。そしてきちんと座《すわ》って見えない空の王様に申しました。
「私どもの不注意からしばらく役目を欠かしましてお申し訳けございません。それにもかかわらず今晩はおめぐみによりまして不思議に助かりました。海の王様が沢山の尊敬をお伝えして呉《く》れと申されました。それから海の底のひとでがお慈悲《じひ》をねがいました。又私どもから申しあげますがなまこももしできますならお許しを願いとう存じます。」
そして二人は銀笛《ぎんてき》をとりあげました。
東の空が黄金色《きんいろ》になり、もう夜明けに間もありません。
底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年6月15日発行
1994(平成6)年6月5日13刷
入力:野口英司
1999年7月23日公開
2004年3月22日修正
青空文庫作成ファイル:
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