げました。大烏は飛びあがってそれを避《さ》け今度はくちばしを槍《やり》のようにしてまっすぐに蠍の頭をめがけて落ちて来ました。
チュンセ童子もポウセ童子もとめるすきがありません。蠍は頭に深い傷を受け、大烏は胸を毒の鉤でさされて、両方ともウンとうなったまま重なり合って気絶してしまいました。
蠍の血がどくどく空に流れて、いやな赤い雲になりました。
チュンセ童子が急いで沓《くつ》をはいて、申しました。
「さあ大変だ。大烏には毒がはいったのだ。早く吸いとってやらないといけない。ポウセさん。大烏をしっかり押えていて下さいませんか。」
ポウセ童子も沓をはいてしまっていそいで大烏のうしろにまわってしっかり押えました。チュンセ童子が大烏の胸の傷口に口をあてました。ポウセ童子が申しました。
「チュンセさん。毒を呑んではいけませんよ。すぐ吐き出してしまわないといけませんよ。」
チュンセ童子が黙《だま》って傷口から六|遍《ぺん》ほど毒のある血を吸ってはき出しました。すると大烏がやっと気がついて、うすく目を開いて申しました。
「あ、どうも済みません。私はどうしたのですかな。たしか野郎をし止めたのだが。」
チュンセ童子が申しました。
「早く流れでその傷口をお洗いなさい。歩けますか。」
大烏はよろよろ立ちあがって蠍を見て又|身体《からだ》をふるわせて云いました。
「畜生。空の毒虫め。空で死んだのを有り難《がた》いと思え。」
二人は大烏を急いで流れへ連れて行きました。そして奇麗《きれい》に傷口を洗ってやって、その上、傷口へ二三度|香《かぐわ》しい息を吹きかけてやって云いました。
「さあ、ゆるゆる歩いて明るいうちに早くおうちへお帰りなさい。これからこんな事をしてはいけません。王様はみんなご存じですよ。」
大烏はすっかり悄気《しょげ》て翼《つばさ》を力なく垂れ、何遍もお辞儀をして
「ありがとうございます。ありがとうございます。これからは気をつけます。」と云いながら脚《あし》を引きずって銀のすすきの野原を向うへ行ってしまいました。
二人は蠍を調べて見ました。頭の傷はかなり深かったのですがもう血がとまっています。二人は泉の水をすくって、傷口にかけて奇麗に洗いました。そして交《かわ》る交《がわ》るふっふっと息をそこへ吹き込みました。
お日様が丁度空のまん中においでになった頃《ころ》蠍は
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