した。
[#ここで字下げ終わり]
この泉は霽《は》れた晩には、下からはっきり見えます。天の川の西の岸から、よほど離《はな》れた処《ところ》に、青い小さな星で円くかこまれてあります。底は青い小さなつぶ石でたいらにうずめられ、石の間から奇麗《きれい》な水が、ころころころころ湧《わ》き出して泉の一方のふちから天の川へ小さな流れになって走って行きます。私共の世界が旱《ひでり》の時、瘠《や》せてしまった夜鷹《よだか》やほととぎすなどが、それをだまって見上げて、残念そうに咽喉《のど》をくびくび[#「くびくび」に傍点]させているのを時々見ることがあるではありませんか。どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。けれども、天《てん》の大烏《おおがらす》の星や蠍《さそり》の星や兎《うさぎ》の星ならもちろんすぐ行けます。
「ポウセさんまずここへ滝《たき》をこしらえましょうか。」
「ええ、こしらえましょう。僕石を運びますから。」
チュンセ童子が沓をぬいで小流れの中に入り、ポウセ童子は岸から手ごろの石を集めはじめました。
今は、空は、りんごのいい匂《におい》いで一杯《いっぱい》です。西の空に消え残った銀色のお月様が吐《は》いたのです。
ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。
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「あまのがわの にしのきしを、
すこしはなれたそらの井戸。
みずはころろ、そこもきらら、
まわりをかこむあおいほし。
夜鷹ふくろう、ちどり、かけす、
来よとすれども、できもせぬ。」
[#ここで字下げ終わり]
「あ、大烏の星だ。」童子たちは一緒《いっしょ》に云いました。
もう空のすすきをざわざわと分けて大烏が向うから肩《かた》をふって、のっしのっしと大股《おおまた》にやって参りました。まっくろなびろうどのマントを着て、まっくろなびろうどの股引《ももひき》をはいて居《お》ります。
大烏は二人を見て立ちどまって丁寧《ていねい》にお辞儀《じぎ》しました。
「いや、今日は。チュンセ童子とポウセ童子。よく晴れて結構ですな。しかしどうも晴れると咽喉が乾《かわ》いていけません。それに昨夜《ゆうべ》は少し高く歌い過ぎましてな。ご免下さい。」と云いながら大烏は泉に頭をつき込《こ》みました。
「どうか構わないで沢山《たくさん》呑《の》んで下さい。」とポウセ童子が云いました。
大烏は息もつ
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