火成岩ですよ。岩脈ですよ。あれは。〕
 ゆれてるゆれてる。光の網。

〔この山は流紋凝灰岩でできてゐます。石英粗面岩の凝灰岩、大へん地味が悪いのです。赤松とちひさな雑木しか生えてゐないでせう。ところがそのへん、麓《ふもと》の緩い傾斜のところには青い立派な闊葉《くゎつえふ》樹が一杯生えてゐるでせう。あすこは古い沖積扇です。運ばれて来たのです。割合|肥沃《ひよく》な土壌を作ってゐます。木の生え工合《ぐあひ》がちがって見えませう。わかりませう。〕わかるだらうさ。けれどもみんな黙って歩いてゐる。これがいつでもかうなんだ。さびしいんだ。けれども何でもないんだ。
 後ろで誰《たれ》かこゞんで石ころを拾ってゐるものもある。小松ばやしだ。混んでゐる。このみちはずうっと上流まで通ってゐるんだ。造林のときは苗や何かを一杯つけた馬がぞろぞろこゝを行くんだぞ。
〔志戸平《しどたひら》のちかく豊沢川の南の方に杉のよくついた奇麗な山があるでせう。あすことこゝとはとても木の生え工合や較《くら》べにも何にもならないでせう。向ふは安山岩の集塊岩、こっちは流紋凝灰岩です。石灰や加里や植物養料がずうっと少いのです。ここにはとても杉なんか育たないのです。〕うしろでふんふんうなづいてゐるのは藤原《ふぢはら》清作だ。あいつは太田《おほた》だからよくわかってゐるのだ。
〔尤《もっと》も向ふの杉のついてゐるところは北側でこっちは南と東です。その関係もありますがさうでなくてもこっちは北側でも杉やひのきは生えません。あすこの崖《がけ》で見てもわかります。この山と地質は同じです。たゞ北側なため雑木が少しはよく育ってます。〕いゝや駄目《だめ》だ。おしまひのことを云ったのは結局混雑させただけだ。云はないで置けばよかった。それでもあの崖はほんたうの嫩《わか》い緑や、灰いろの芽や、樺《かば》の木の青やずゐぶん立派だ。佐藤箴《さとうかん》がとなりに並んで歩いてるな。桜羽場《さくらはば》が又凝灰岩を拾ったな。頬《ほほ》がまっ赤で髪も赭《あか》いその小さな子供。
 雲がきれて陽が照るしもう雨は大丈夫だ。さっきも一遍云ったのだがもう一度あの禿《はげ》の所の平べったい松を説明しようかな。平ったくて黒い。影も落ちてゐる、どこかであんなコロタイプを見た。及川《おひかは》やなんか知ってるんだ。よすかな。いゝや。やらう。
〔さあ、いゝですか。あ
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング