り]
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
爾薩待「ああ、君か、出来たね。」
ペンキ屋(汗を拭きながら渡す)「あの、五円三十銭でございます。」
爾薩待「ああ、そうか。ずいぶん急がして済まなかったね。何せ今日から開業で、新聞にも広告したもんだからね。」
ペンキ屋「はあ、それでようございましょうか。」
爾薩待「ああ、いいとも、立派にできた。あのね、お金は月末まで待って呉《く》れ給《たま》え。」
ペンキ屋「あのう、実はどちらさまにも現金に願ってございますので。」
爾薩待「いや、それはそうだろう。けれどもね、ぼくも茲《ここ》でこうやって医者を開業してみれば、別に夜逃げをする訳でもないんだから、月末まで待ってくれたまえ。」
ペンキ屋「ええ、ですけれど、そう言いつかって来たんですから。」
爾薩待「まあ、いいさ。僕だって、とにかくこうやって病院をはじめれば、まあ、院長じゃないか。五円いくらぐらいきっと払うよ。そうしてくれ給え。」
ペンキ屋「だって、病院だって、人の病院でもないんでしょう。」
爾薩待「勿論《もちろん》さ。植物病院さ。いまはもう外国ならどこの町だって植物病院はあるさ。ここではぼく
前へ
次へ
全17ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング