代意慾の曼陀羅になる
  ……峡いっぱいに蛙がすだく……
     (こゝらのまっくろな蛇紋岩には
      イリドスミンがはひってゐる)
ところがどうして
空いちめんがイリドスミンの鉱染だ
世界ぜんたいもうどうしても
あいつが要ると考へだすと
  ……虹のいろした野風呂の火……
南はきれいな夜の飾窓《ショーウヰンドウ》
蠍はひとつのまっ逆さまに吊るされた、
夏ネクタイの広告で
落ちるかとれるか
とにかくそいつがかはってくる
赤眼はくらいネクタイピンだ
[#改ページ]

  三六八  種山ヶ原
[#地付き]一九二五、七、一九、

まっ青に朝日が融けて
この山上の野原には
濃艶な紫いろの
アイリスの花がいちめん
靴はもう露でぐしゃぐしゃ
図板のけいも青く流れる
ところがどうもわたくしは
みちをちがへてゐるらしい
ここには谷がある筈なのに
こんなうつくしい広っぱが
ぎらぎら光って出てきてゐる
山鳥のプロペラアが
三べんもつゞけて立った
さっきの霧のかかった尾根は
たしかに地図のこの尾根だ
溶け残ったパラフ※[#小書き片仮名ヰ、515−2]ンの霧が
底によどんでゐた、谷は、
たしかに地図の
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