三二六
[#地付き]一九二五、四、二〇、
風が吹き風が吹き
残りの雪にも風が吹き
猫の眼をした神学士にも風が吹き
吹き吹き西の風が吹き
はんの木の房踊る踊る
偏光! 斜方錐! トランペット!
はんの木の花ゆれるゆれる
吹き吹き西の風が吹き
青い鉛筆にも風が吹き
かへりみられず棄てられた
頌歌訳詞のその憤懣にも風が吹き
はんの木の花をどるをどる
(塩をたくさんたべ
水をたくさん呑み
塩をたくさんたべ
水をたくさん呑み)
東は青い銅のけむりと
いちれつひかる雪の乱弾
吹き吹き西の風が吹き
レンズ! ヂーワン! グレープショット!
はんの雄花はこんどはしばらく振子になる
[#改ページ]
三二七 清明どきの駅長
[#地付き]一九二五、四、二一、
こごりになった古いひばだの
盛りあがった松ばやしだの
いちどにさあっと青くかはる
かういふ清明どきはです
線路の砂利から紅い煉瓦のラムプ小屋から
いぢけて矮《ひく》い防雪林の杉並あたり
かげろふがもうたゞぎらぎらと湧きまして
沼気や酸を洗ふのです
……手袋はやぶけ
肺臓は
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