九二五、四、一二、
烈しいかげろふの波のなかを、
紺の麻着た肩はゞひろいわかものが
何かゆっくりはぎしりをして行きすぎる、
どこかの愉快な通商国へ
挨拶をしに出掛けるとでもいふ風だ
……あをあを燃える山の雪……
かれくさもゆれ笹もゆれ
こんがらかった遠くの桑のはたけでは
煙の青い lento もながれ
崖の上ではこどもの凧の尾もひかる
……ひばりの声の遠いのは
そいつがみんな
かげろふの行く高いところで啼くためだ……
ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっはぎしりをして
ひとは林にはひって行く
[#改ページ]
五二〇
[#地付き]一九二五、四、一八、
地蔵堂の五本の巨杉《すぎ》が
まばゆい春の空気の海に
もくもくもくもく盛りあがるのは
古い怪《け》性の青唐獅子の一族が
ここで誰かの呪文を食って
仏法守護を命ぜられたといふかたち
……地獄のまっ黒けの花椰菜め!
そらをひっかく鉄の箒め!……
地蔵堂のこっちに続き
さくらもしだれの柳も匝《めぐ》る
風にひなびた天台|寺《でら》は
悧発で純な三年生の寛の家
寛がいまより小さなとき
鉛いろした障子だの
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