かういふひそかな空気の沼を
板やわづかの漆喰から
正方体にこしらへあげて
ふたりだまって座ったり
うすい緑茶をのんだりする
どうしてさういふやさしいことを
卑しむこともなかったのだ
   ……眼に象って
     かなしいあの眼に象って……
あらゆる好意や戒めを
それが安易であるばかりに
ことさら嘲けり払ったあと
ここには乱れる憤りと
病ひに移化する困憊ばかり
   ……鳥が林の裾の方でも鳴いてゐる……
   ……霰か氷雨を含むらしい
     黒く珂質の雲の下
     三郎沼の岸からかけて
     夜なかの巨きな林檎の樹に
     しきりに鳴きかふ磁製の鳥だ……
      (わたくしのつくった蝗を見てください)
      (なるほどそれは
       ロッキー蝗といふふうですね
       チョークでへりを隈どった
       黒の模様がおもしろい
       それは一疋だけ見本ですね)
おゝ月の座の雲の銀
巨きな喪服のやうにも見える
[#改ページ]

  五一五  朝餐
[#地付き]一九二五、四、五、

苔に座ってたべてると
麦粉と塩でこしらへた
このまっ白な鋳物
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