エノテララマーキアナ何とかっていふんだ)
(ではラマークの発見だわね)
(発見にしちゃなりがすこうし大きいぞ)
   燕麦の白い鈴の上を
   へらさぎ二疋わたってきます
(どこかですももを灼いてるわ)
(あすこの松の林のなかで
 木炭《すみ》かなんかを焼いてるよ)
(木炭窯ぢゃない瓦窯だよ)
(瓦|窯《や》くとこ見てもいゝ?)
(いゝだらう)

 林のなかは淡いけむりと光の棒
 窯の奥には火がまっしろで
 屋根では一羽
 ひよがしきりに叫んでゐます
(まああたし
 ラマーキアナの花粉でいっぱいだわ)
    イリスの花はしづかに燃える
[#改ページ]

  一六六  薤露青
[#地付き]一九二四、七、一七、

みをつくしの列をなつかしくうかべ
薤露青の聖らかな空明のなかを
たえずさびしく湧き鳴りながら
よもすがら南十字へながれる水よ
岸のまっくろなくるみばやしのなかでは
いま膨大なわかちがたい夜の呼吸から
銀の分子が析出される
  ……みをつくしの影はうつくしく水にうつり
    プリオシンコーストに反射して崩れてくる波は
    ときどきかすかな燐光をなげる……
橋板や空がいきなり
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