ロヂウムから代填される……
また紺青の地平線から
六列展く電柱列に
碍子がごろごろ鳴りますと
汽車は触媒の白金を噴いて
線路に沿った黄いろな草地のカーペットを
ぶすぶす青く焼き込みながら
なかを走ってくるのです
[#改ページ]
三三三 遠足統率
[#地付き]一九二五、五、七、
もうご自由に
ゆっくりごらんくださいと
大ていそんなところです
そこには四本巨きな白楊《ドロ》が
かがやかに日を分劃し
わづかに風にゆれながら
ぶつぶつ硫黄の粒を噴く
前にはいちいち案内もだし
博物館もありましたし
ひじゃうに待遇したもんですが
まい年どしどし押しかける
みんなはまるで無表情
向ふにしてもたまらんですな
せいせいと東北東の風がふいて
イーハトーヴの死火山は
斧劈の皺を示してかすみ
禾草がいちめんぎらぎらひかる
いつかも騎兵の斥候が
秣畑をあるいたので
誰かがちょっととがめたら
その次の日か一旅団
もうのしのしとやってきて
大演習をしたさうです
鶯がないて
花樹はときいろの焔をあげ
から松の一聯隊は
青く荒んではるかに消える
えゝもうけしきはいゝとこですが
冬に空気が乾くので
健康地ではないさうです
中学校の寄宿舎へ
ここから三人来てゐましたが
こどものときの肺炎で
みな演説をしませんでした
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけた機関銃
こんどは一ぴき鶯が
青い折線のグラフをつくる
あゝやって来たやっぱりひとり
まあご随意といふ方らしい
あ誰だ
電線へ石投げたのは
くらい羊舎のなかからは
顔ぢゅう針のささったやうな
巨きな犬がうなってくるし
井戸では紺の滑車が軋り
蜜蜂がまたぐゎんぐゎん鳴る
(イーハトーヴの死火山よ
その水いろとかゞやく銀との襞ををさめよ)
[#改ページ]
三三五
[#地付き]一九二五、五、一〇、
つめたい風はそらで吹き
黒黒そよぐ松の針
ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で
雪ものぞけば
銀斜子の月も凍って
さはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる
しかもこの風の底の
しづかな月夜のかれくさは
みなニッケルのあまるがむで
あち
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