ん》は首《くび》かざりを渡《わた》して百合《ゆり》を手にとりました。
 「何にするんだい。その花を」子供《こども》がふと思いついたように言《い》いました。
 「正※[#「※」は「偏」のにんべんが行にんべん、第3水準1−84−34、86−1]知《しょうへんち》にあげるんだよ」
 「あっ、そんならやらないよ」子供《こども》は首《くび》かざりを投《な》げ出しました。
 「どうして」
 「僕《ぼく》がやろうと思ったんだい」
 「そうか。じゃ返《かえ》そう」
 「やるよ」
 「そうか」大臣《だいじん》はまた花を手にとりました。
 「お前はいい子だな。正※[#「※」は「偏」のにんべんが行にんべん、第3水準1−84−34、86−8]知《しょうへんち》がいらっしゃったらあとについてお城《しろ》へおいで。わしは大蔵大臣《おおくらだいじん》だよ」
 「うん、行くよ」子供《こども》はよろこんで叫《さけ》びました。
 大臣《だいじん》は林をまわって川の岸《きし》へ来ました。
 「立派《りっぱ》な百合《ゆり》だ。ほんとうに。ありがとう」王様《おうさま》は百合《ゆり》を受けとってそれからうやうやしくいただきました。
 川の向《む》こうの青い林のこっちにかすかな黄金《きん》いろがぽっと虹《にじ》のようにのぼるのが見えました。みんなは地にひれふしました。王もまた砂《すな》にひざまずきました。
 二|億年《おくねん》ばかり前どこかであったことのような気がします。



底本:「銀河鉄道の夜」角川文庫、角川書店
   1969(昭和44)年7月20日改版初版発行
   1993(平成5)年6月20日改版71版発行
入力:薦田佳子
校正:平野彩子
2000年8月25日公開
青空文庫作成ファイル:
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