男こそ雲助のように、風にながされるのか、ひとりでに飛ぶのか、どこというあてもなく、ふらふらあるいていたのです。
(ところがここは七つ森だ。ちゃんと七っつ、森がある。松《まつ》のいっぱい生えてるのもある、坊主《ぼうず》で黄いろなのもある。そしてここまで来てみると、おれはまもなく町へ行く。町へはいって行くとすれば、化けないとなぐり殺される。)
山男はひとりでこんなことを言いながら、どうやら一人《ひとり》まえの木樵《きこり》のかたちに化けました。そしたらもうすぐ、そこが町の入口だったのです。山男は、まだどうも頭があんまり軽くて、からだのつりあいがよくないとおもいながら、のそのそ町にはいりました。
入口にはいつもの魚屋があって、塩鮭《しおざけ》のきたない俵《たわら》だの、くしゃくしゃになった鰯《いわし》のつらだのが台にのり、軒《のき》には赤ぐろいゆで章魚《だこ》が、五つつるしてありました。その章魚を、もうつくづくと山男はながめたのです。
(あのいぼのある赤い脚《あし》のまがりぐあいは、ほんとうにりっぱだ。郡役所の技手《ぎて》の、乗馬ずぼんをはいた足よりまだりっぱだ。こういうものが、海の底の
前へ
次へ
全14ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング