#感嘆符三つ、541−2] ひらき
さやう
もいちど極めて大きな息すべし
今度も等比級数か
こいつはだめだ
誰に別れるひまもない
もう睡れ
睡ってしまへ
いや死ぬときでなし
発奮すべし
眼をひらき
手を胸に副へ息を吸へ
  ……母はくりやで水の音……
[#改ページ]

  〔そしてわたくしはまもなく死ぬのだらう〕


そしてわたくしはまもなく死ぬのだらう
わたくしといふのはいったい何だ
何べん考へなおし読みあさり
さうともきゝかうも教へられても
結局まだはっきりしてゐない
わたくしといふのは
[以下空白]
[#改ページ]

  (一九二九年二月)


われやがて死なん
  今日又は明日
あたらしくまたわれとは何かを考へる
われとは畢竟法則の外の何でもない
  からだは骨や血や肉や
  それらは結局さまざまの分子で
  幾十種かの原子の結合
  原子は結局真空の一体
  外界もまたしかり
われわが身と外界とをしかく感じ
これらの物質諸種に働く
その法則をわれと云ふ
われ死して真空に帰するや
ふたゝびわれと感ずるや
ともにそこにあるのは一の法則のみ
その本原の法の名を妙法蓮華経と名づくといへり
そのこと人に菩提の心あるを以て菩薩を信ず
菩薩を信ずる事を以て仏を信ず
諸仏無数数億而も仏もまた法なり
諸仏の本原の法これ妙法蓮華経なり
  帰命妙法蓮華経
  生もこれ妙法の生
  死もこれ妙法の死
  今身より仏身に至るまでよく持ち奉る



底本:「宮沢賢治全集2」ちくま文庫、筑摩書房
   1986(昭和61)年4月24日初版第1刷発行
   1990年6月25日第4刷
底本の親本:「校本宮沢賢治全集」筑摩書房
入力:今中一時
校正:浜野智
1998年6月5日公開
2005年10月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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