びとのおもかげや声
ありとあるしじまとうごき
なべてよりいざ立ちかへり
散乱のわが心相よ
あつまりてしづにやすらへ
あしたこそ燃ゆべきものを
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〔そのうす青き玻璃の器に〕
そのうす青き玻璃の器に
しづにひかりて澱めるは
まことや菩薩わがために
血もてつぐなひあがなひし
水とよばるゝそれにこそ
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名声
なべてのまこといつはりを
たゞそのまゝにしろしめす
正※[#「彳+扁」、第3水準1−84−34]知をぞ恐るべく
人に知らるゝことな求めそ
また名を得んに十万の
諸仏のくにに充ちみてる
天と菩薩をおもふべく
黒き活字をうちねがはざれ
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〔春来るともなほわれの〕
春来るともなほわれの
えこそは起たぬけはひなり
さればかしこの崖下の
高井水車の前あたり
矢ばねのさまに鳥とびて
くるみの列の足なみを
雪融の水の来るところ
乾田の盤のまなかより
青きすゞめのてっぱうと
稲の根赤く錆びにたる
湯気たつ土の一かけを
とり来てわれに示さずや
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〔今宵南の風吹けば〕
今宵南の風吹けば
みぞれとなりて窓うてる
その黒暗のかなたより
あやしき鐘の声すなり
雪をのせたる屋根屋根や
黒き林のかなたより
かつては聞かぬその鐘の
いとあざけくもひゞきくる
そはかの松の並木なる
円通寺より鳴るらんか
はた飯豊の丘かげの
東光寺よりひゞけるや
とむらふごとくあるときは
醒ますがごとくその鐘の
汗となやみに硬ばりし
わがうつそみをうち過ぐる
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〔熱とあへぎをうつゝなみ〕
熱とあへぎをうつゝなみ
死《しに》のさかひをまどろみし
このよもすがらひねもすを
さこそはまもり給ひしか
瓔珞もなく沓もなく
たゞ灰いろのあらぬのに
庶民がさまをなしまして
みこゝろしづに居りたまふ
み名を知らんにおそれあり
さは云へまことかの文に
三たびぞ記し置かれける
おんめがみとぞ思はるゝ
さればなやみと熱ゆゑに
みだれごころのさなかにも
み神のみ名によらずして
法の名にこそきましけれ
瓔珞もなく沓もなく
はてなき業の児らゆゑに
みまゆに雲のうれひして
さこそはしづに居りたまふ
[#改ページ]
〔わが胸はいまや蝕み〕
[#地付き]一九二八ヽ一二ヽ
わが胸はいまや蝕み
わがのんど熱く燃えたり
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