うはははは。」
「ふふふ青白の番兵だ。」
「ううははは、青じろ番兵だ。」
「こんどおれ行って見べが。」
「行ってみろ、大丈夫《だいじょうぶ》だ。」
「喰《く》っつがないが。」
「うんにゃ、大丈夫だ。」
そこでまた一疋が、そろりそろりと進んで行きました。五疋はこちらで、ことりことりとあたまを振《ふ》ってそれを見ていました。
進んで行った一疋は、たびたびもうこわくて、たまらないというように、四本の脚を集めてせなかを円《まろ》くしたりそっとまたのばしたりして、そろりそろりと進みました。
そしてとうとう手拭のひと足こっちまで行って、あらんかぎり首を延ばしてふんふん嗅《か》いでいましたが、俄かにはねあがって遁げてきました。みんなもびくっとして一ぺんに遁げだそうとしましたが、その一ぴきがぴたりと停まりましたのでやっと安心して五つの頭をその一つの頭に集めました。
「なじょだた、なして逃げで来た。」
「噛《か》じるべとしたようだたもさ。」
「ぜんたいなにだけあ。」
「わがらないな。とにかぐ白どそれがら青ど、両方のぶぢだ。」
「匂《におい》あなじょだ、匂あ。」
「柳の葉みだいな匂だな。」
「はでな、息《いぎ》吐《つ》でるが、息《いぎ》。」
「さあ、そでば、気付けないがた。」
「こんどあ、おれあ行って見べが。」
「行ってみろ」
三番目の鹿《しか》がまたそろりそろりと進みました。そのときちょっと風が吹いて手拭がちらっと動きましたので、その進んで行った鹿はびっくりして立ちどまってしまい、こっちのみんなもびくっとしました。けれども鹿はやっとまた気を落ちつけたらしく、またそろりそろりと進んで、とうとう手拭まで鼻さきを延ばした。
こっちでは五疋がみんなことりことりとお互《たがい》にうなずき合って居《お》りました。そのとき俄かに進んで行った鹿が竿立《さおだ》ちになって躍《おど》りあがって遁げてきました。
「何《な》して遁げできた。」
「気味悪《きびわり》ぐなてよ。」
「息《いぎ》吐《つ》でるが。」
「さあ、息《いぎ》の音《おど》あ為《さ》ないがけあな。口《くぢ》も無いようだけあな。」
「あだまあるが。」
「あだまもゆぐわがらないがったな。」
「そだらこんだおれ行って見べが。」
四番目の鹿が出て行きました。これもやっぱりびくびくものです。それでもすっかり手拭の前まで行って、いかにも思い切
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